商業出版を目指す前に知っておいて欲しいこと
商業出版を目指すのであれば、まずは出版物について知りましょう。
「商業出版」とひと言でいっても、出版物にはさまざまなジャンルやカテゴリがあるのをご存知でしょうか。
図のように、雑誌や写真集、漫画、文芸書、エッセイ、学習参考書は、これから本書で取り上げる実用書と同じ出版物です。
しかし、同じ出版物でありながらも、それぞれ、企画の考え方や本の作り方、販促方法などがまったく違います。
出版社の中は、制作する出版物の種類によって編集部が分かれています。雑誌の編集部、漫画の編集部、一般書の編集部などがあり、各編集部の中に、編集長や編集者が在籍しています。
ここで皆さんに知っていただきたいのは、編集部が異なると、同じ出版社の編集者であっても、部署の垣根を超える話に関してはよくわからないということです。
よく勘違いされるのですが、編集者だからといって出版についてなんでも知っているわけではありません。
私は約20年以上にわたり書籍の編集を行なっていますが、手掛けた出版物の多くは実用書です。
ですから、実用書に関することであれば大抵のことは把握していますが、それ以外の出版物となると話は別です。
実用書で通用するノウハウも、他の出版物では通用しないでしょうし、実用書以外の出版物を手掛ける編集者と知り合う機会も滅多にありません。
事実、実用書や実用書に近い一般書を作る編集者とは交流がありますが、絵本の編集者とは未だかつてお会いしたことがありません。
いくら同じ出版業界であっても、出版物や編集部が異なるということは、まったく別の世界の話になると思っていただいてもいいくらいです。
もしあなたが商業出版を目指されるのであれば、今お伝えしたように、出版物にはカテゴリやジャンルによって編集部が異なることを覚えておいてください。
そして、それぞれの持つ企画の立て方などのプロセスがまったく違うことも知っておいてください。
その上で、自分がどのカテゴリで出版したいのかを考え、目指すべき出版物に相応しい戦略を練っていってください。
一般書と実用書は共存しない
出版物はカテゴリによってプロセスやノウハウがまったく違うとお伝えしましたが、その中でも一般書と実用書は、一部似ているところがあります。
一般書と実用書の違いについては出版業界の中でも意見が分かれるところです。
結論の出ないテーマではありますが、私は、この2つは似て非なるものであると捉えて
います。
そう考える理由は全部で5つあります。
まず、一般書と実用書が異なるところは、書籍に付けられるタイトルの傾向です。
一般書には、書店に訪れたお客さんの興味を引きつけられるようなインパクトのあるタイトルが付いています。
一般書の内容は、面白そうな本を探しに書店に訪れた人の好奇心を満たすように作られますから、書籍のタイトルを見た人が「面白そう」「なんだろう?」と、瞬間的に感じるようなタイトルが付けられています。
一方、実用書は、ベネフィットや読後に得られる効果が伝わるようなタイトルが付けられています。
実用書は、悩みや欲求を解消したくて書店にヒントを探しに訪れた人へ向けて作られますから、書籍のタイトルは、「これで悩みが解消されるかも」「この本を読めば〇〇ができるようになるかもしれない」と感じさせられるものが付けられるのです。
次に、売れ方においても違いがあります。
一般書を売る際に重要なのは、その書籍が世間で話題になるかどうかです。
なぜなら一般書の場合は、できるだけ多くの人の興味関心を引きつけ、その引きつけられた人々が気になって書籍を買うというようなプロセスで売れていく傾向があるからです。
ですから、書店以外の場所でもどんどん露出するように仕掛けられます。
例えば、雑誌やテレビで取り上げてもらえるようにするとか、ネットでバズが起こりやすくするといったことです。
それに対し実用書の内容は、悩みや欲求に訴求したものですから、「〇〇がしたい」
など、悩みや欲求を抱えた人が、Amazonのようなネット書店やリアル書店で、書籍
を見つけて買っていくというプロセスで売れていきます。
3つ目は、本の作り方や企画の立て方における違いです。
一般書の場合は、どちらかと言えば切り口勝負です。
ここでいう切り口とは、簡単にいうと面白いかどうか。
ある特定のテーマを、いかに好奇心をくすぐる形にして打ち出せるかというところが勝負所です。
「〇〇するなら▲▲をやめなさい」のように、命令調かつ意外性を打ち出すようなタイトルがついた書籍を見たことがあると思います。
同じことを伝えるにしても、少し煽るようなタイトルだったり、命令調なタイトルだったりすることが多いのが一般書です。
では、実用書の場合はどうでしょうか。
実用書の場合は、面白さよりもわかりやすさが勝負です。
例えばマイクロソフト社のワードの使い方を伝えるのであれば、どれだけわかりやすく伝えられるかが重視されます。
ここに、「はじめてでも一週間でわかるワード」というタイトルの書籍があったとしましょう。
この場合、書籍を購入する人は、おそらく初めてワードを使う人です。
なので、書籍に求められることは、ワードのことをまったく知らない人でもきちんと使
えるようになること。
丁寧に解説し、タイトルで約束したレベルまでは、読者をきちんと導いてあげることです。
4つ目、本の著者にも違いがあります。
先ほどもお伝えしたように、一般書は話題になることで買われる仕組みになっています。
ということは当然、著者選びも重要になるわけです。
既に影響力のある人や知名度のある人が著者になれば、それだけで書籍が売れることもありますし、帯にも著名な人の顔写真やコメントが掲載されていれば、より書籍は売れやすくなります。
一般書の読者が、好奇心を刺激されて書籍を購入することを考慮すると、話題性のある人や著名な人が著者になっていたり、帯に出ていたりすることは、書籍の売れ行きに大きく影響する大切な要素なのです。
一般書は既に影響力のある人が著者になりやすいのに対し、実用書の場合は必ずしもそうではありません。
実用書の場合は、何かのテーマに特化していることが大事なので、特定のテーマの専門家であれば出版する権利があると言えます。
要するに、あなたが今の時点で有名ではなかったとしても、そのテーマにおいては専門家だと言えるのであれば、著者になれる可能性があるというわけです。
5つ目は、編集者の考え方や期待における違いです。
これまで何度かお伝えしていますが、一般書は、多くの人の話題になることで買われる仕組みです。
ですから一般書の編集者としては、作る段階からその書籍がベストセラーになることを期待します。
でも実用書の場合は、一般書のように勢いよく売れません。
ですから編集者は、手堅く買われていくことを考え好奇心を刺激するような面白さよりも、読者の人の悩みや欲求に寄り添い、読者から感謝してもらえるような書籍を作ろうとします。
このように、一般書と実用書では似ているようで異なる点が多くあります。
ベストセラーを狙う一般書と手堅く売れることを考える実用書では、基本的に考え方が違います。
ですから、この2つはまったく別のものであると考えてよいと言えます。
商業出版を目指される人の中には、まれに「ベストセラーとなる本を書いて、仕事にもつながる本が作りたい」と言う人がいますが、それは難しいです。
でも、出版のタイミングと世間から注目されていることが合致した場合などで、実用書でも運よくベストセラーになることもあります。
あるいは、一般書でベストセラーを狙って作った書籍が、たまたま仕事にもつながったといったことも、もちろん起こり得ます。
そんなラッキーに恵まれることもありますが、それは狙ってできることではありません。
一般書と実用書のビジネスへのつなげ方の違い
出版することでビジネスを加速させていこうというのが本書の狙いですが、実際、出
版した後にビジネスでどのような変化が起こるのかがわからない人もいます。
なのでここでは、一般書と実用書におけるビジネスへのつながり方の違いについてお伝えします。
一般書も実用書も、ビジネスにつなげることができます。
ただ、この2つはそれぞれ、つながる先が違います。
つながる先が違うとは、どういうことでしょうか。
一般書の場合は、繰り返しお伝えしているように多くの人の好奇心をフックにして買ってもらうような仕掛けですから、やってくる仕事としては講演会やテレビのコメンテーターのような仕事が多くなります。
「切り口の面白い書籍の著者なので、面白い話をしてくれそう」あるいは「この先生なら、いいコメントをくれるのでは」という期待のされ方をするので、メディアに関する仕事が増えるのです。
他にも、講座のような短期間で多くの集客を必要とするビジネスにつながることもあります。
ベストセラーを狙う一般書の場合、瞬間風速的に売れるような本の作り方をしますから、その一気に集まった人たちの中から、集客できるのです。
しかしながら、集まってきた人たちの熱量というのは、好奇心からくる場合がほとんど。
必ずしも、自分のビジネスのテーマに関心のある人たちとは限りません。
一般書をビジネスにつなげることは不可能ではありませんが、そうしたギャップをどのように埋めるのかは考えなくてはならないところです。
一方実用書というのは、悩みや欲求に対して訴求します。
そのため、仕事につながる先としては、セミナーや研修が多くなります。
呼ばれた先のセミナーや研修で、きちんと自分の持つコンテンツやノウハウをしっかり伝え、お客様に満足してもらい、ファンを少しずつ増やしていくというようなビジネスのつながり方になります。
では実用書を出版すると、一般書のようにメディアへの出演オファーはないのかというと、決してそういうわけではありません。
実用書を出版してメディアからのオファーが増えるということは、余程ニッチなテーマの専門家であり、かつそのテーマに関する何かニュースが発生した時に限ってオファーされるケースが多いです。
そのような場合は、おそらくコメンテーターとして出演することになるのでしょうが、コメンテーターの仕事は単発的なものがほとんど。
そう考えると、安定的に仕事が発生するとは言い難いですね。
このように、実用書の出版からつながるビジネスは、自分の今の仕事に直接関連する仕事のオファーになりやすいです。
それはやはり、そもそも実用書というものが、悩みや欲求を抱えている読者に対し、その答えを本の内容として提供するものだからでしょう。
仮にあなたが、自分の集客について悩んでいたとします。
頑張っているのになかなか周囲に理解してもらえないとか、営業して話は聞いてもらえるけれど、成約できない。
そんな悩みを抱えていたとします。
そのような時に、書店で自分の悩みが解決できそうな書籍を見つけます。
そして、その書籍の内容に沿って行動したら改善できた。
でも、本当にこれで大丈夫なのだろうか。
もう少しきちんと知りたいので、この著者の人の講座を受けてみよう。
と、なったりするわけです。
この段階では、既に書籍に書かれている内容を実践したことで悩みは改善したわけですし、読者のほうにはそのことに対する感謝が生まれています。
「自分がずっと悩んでいた悩みを、本1冊で解決するなんて、この先生はすごいなあ」というように、読者から信頼もされています。
この話はもちろん作り話ですが、似たようなことは現実として起こっています。
事実、私のところから出版した著者たちも、書籍の読者からオファーをもらい、出
版を機にビジネスを加速させていっています。
実用書は、一般書のように短期で一気にかつ大量に集客するようなことは難しいです。
その代わり、その時その時に悩んでいる人たちが読者になってくれます。
勢いには欠けるかもしれませんが、長期的な集客をしたい場合には、強みを発揮します。
一般書と実用書では刊行後の売れ方も違う
一般書と実用書のビジネスへのつなげ方の違いに関して、一般書は短期的に人を集めるのに向いており、実用書は長期的に人を集めるのに向いているということをお伝えしました。
ここでは、その理由について、もう少し詳しく説明していきます。
一般書と実用書で集客の仕方に違いが生じるのは、両者における刊行後の売れ方が関係しています。
繰り返しお伝えしているように、一般書の場合はより多くの人に手に取ってもらえるように作られますから、刊行後の売れ方のイメージとしては、図のように瞬間風速的なものになります。
一般書は露出することで売れていく類の出版物です。
ですから極論を言えば、いかにして露出させるかが大事になります。
出版の世界は、毎日何冊もの書籍が発刊されるので、売れ行きが収束し始めると、たちまち書店に置かれなくなっていくというシビアな世界でもあります。
ですから、売れるときに勢いよく売っておかなければならないのです。
ただ一般書の場合は、たとえ一回収束してしまったとしても、メディアで再び話題になったり、インフルエンサーが拡散させたりすれば、また勢いよく売れることがあります。
露出している間は売れるけれど、露出しなくなって話題性がなくなると途端に売れなくなっていく……。
それが一般書の売れ方の特徴です。
出版社もこのような特徴を熟知していますので、最初からこうした特徴を踏まえた売上計画を立てていきます。
そのようなこともあり、一般書の多い出版社の場合は、瞬間的でも話題をさらえるような煽りタイトルをつける傾向が多くなるのです。
それに対し、実用書の場合はどうでしょうか。
実用書の場合も、一般書と同様、新刊の間はある程度勢いよく売れていきます。
ですが、ある程度期間が経つと売れ方は緩やかになります。
ただ、ここから先が一般書と実用書の違い。
一般書の場合は、話題性がなくなり売れ行きが収束すると、書店から置かれなくなるとお伝えしました。
でも実用書の場合は、実際の読者の悩みや欲求に訴求した普遍的なテーマで書かれることが多いので、長期でジワジワ売れます。
爆発的には売れるような派手さはないけれど、手堅く長期で売れていくため、図のようなイメージになります。
一般書と実用書、どちらの売れ方がよいのかという点については、正直どちらも一長一短あります。
どちらの本をたくさん手がけるかは、出版社によって方針が異なりますし、むしろその選んだ方針こそが、出版社のカラーになっているともいえるからです。
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