大変なわりに意外とおいしくない一般書
一般書と実用書は、どちらも一長一短だと言いました。
でも、あなたが商業出版をしてビジネスを加速させていこうと考えるなら、私は一般書より実用書の出版の方が有利だと考えています。
なぜなら一般書は、皆さんが想像されるよりもはるかに大変で、しかも大変なわりに実利につながりにくいという現実があるからです。
大変なわりに実利につながりにくいと考える理由は3つあります。
まず、参入障壁が高いこと。
次に、読者が増えても本業の実利にはつながりにくいこと、そして3つ目は、多くの著者が一発屋で終わってしまい、継続して出版することが難しいことです。
まず、参入障壁が高いとはどういうことでしょうか。
通常一般書を作る場合、編集者はベストセラーを狙って作るわけですが、ベストセラーを狙うというのは簡単なことではありません。
もしも、ベストセラーにするための確固たるノウハウがあるのだとしたら、現在の出版不況という事態は免れていたはずでしょう。
つまり、再現性がない。
いわゆる博打的な要素がかなりあるというのが、ベストセラーの本質なのです。
狙ってベストセラーが出せるわけではなく、あくまでもベストセラーを狙おうとするチャレンジの中で、世の中の動向や著者の影響力、タイミングなど、さまざまな条件がいい具合に絡み合った結果として、偶然生まれるものと考えた方がよいでしょう。
博打的要素があるということは、作った書籍がベストセラーになれば得られるものは大きいですが、当たらなかった時のダメージも大きいということです。
ベストセラーが偶発的に生まれるものだとするなら、ビジネスとして出版を考える上では、あまりにリスクが大きいのではないか。
出版したことで得られる効果を考えると、私は意外と一般書はおいしくないのではと思うわけです。
編集者が一般書を作る時、失敗のリスクを少しでも減らし、1冊でも多く売れるような著者を探します。
ベストセラーを狙うための企画は編集者が考えますが、自分は編集者ですから、自分が著者になったところでベストセラーは狙えません。
ですから、考えた企画に対して適任の著者を探してオファーするというのが通常の流れです。
企画の斬新さは売れ行きには影響しますが、著者の知名度や影響力も売れ行きを左右します。
ということは、あなたが現時点でそれなりに知名度があるとか、影響力があるというのであれば話は別ですが、そうでないなら、一般書の著者になるというのは、参入障壁がかなり高くなってしまうというわけです。
ただ、まったく参入できないわけではありません。
知名度や影響力のない人が、一般書の著者になる道もあります。
その道があるとするなら、それはやはり企画力です。
編集者が思いつかないような企画を自分で考え、出版企画書にまとめて提案すれば、場合によっては出版に結びつく可能性があります。
でも、どちらにしてもかなり高いレベルが要求される話です。
このように、一般書の著者になるには、かなり高いレベルが求められるのです。
にもかかわらず、自分の本業につながっていくかというと、実際はそこまででもありません。
この理由は明白で、一般書の読者の大半が好奇心を満たされるだけで終わってしまうからです。
何度かお伝えしていますが、一般書は読者の好奇心を掻き立てるように作り、たくさんの人に買ってもらうことで売上につなげていきます。
ですから、読者が満たされるのは好奇心のみ。
書籍を買って読み「面白かった」と感じたからといって、その書籍の著者に仕事を依頼しようとはなりにくいですよね。
同じ著者が書いている他の本を読んでみたいとか、講演会に行ってみようといった願望は起こるでしょうが、著者の本業のビジネスに興味を持ち、実際に仕事のオファーをするという読者は、かなり限られてしまいます。
ベストセラーになり、多くの人に買ってもらえるということはあるかもしれませんが、その先で自分のビジネスの実利につながるかというと、なかなか難しいのが現実です。
苦労してベストセラーにしても、たった1回だけでは先細りしてしまいます。
ベストセラーが出せることはもちろん素晴らしいことですが、それを連発できる人はほんのひと握り。
実際には多くの著者が一発屋で終わってしまっています。
ベストセラーになったことを機に、それまでの本業を捨てて作家に転身しようとする人もいますが、その方法で成功しているケースはほとんどありません。
書籍を出版することで得られるブランディング効果は、およそ3年と言われます。
3年以上経過して、名刺交換の際に「実は、私は著者なんです」と言って3年以上前に出版された書籍を差し出されても、相手からの反応は薄いものになってしまうでしょう。
たった1回ベストセラーになったくらいでは、ブランディング効果も長期ではあまり期待できませんし、ビジネスを安定させるのも難しいのです。
高いハードルを乗り越え、苦労して出版に漕ぎ着けたとしても、その効果はたった3年……。
この現実をどのように受け取るかは個人の自由ですが、ビジネスにつなげることを考えるのであれば、一般書はあまりおいしくないと私は考えます。
人知れずビジネスにつなげられる実用書
ビジネスを加速させるために出版を活用するなら、一般書よりも実用書の出版がよいというのは間違いありません。
それは、単に一般書の出版が大変だからという理由だけではありませんし、私が実用書の編集者だからという安易な考えからでもありません。
仕事として多くの実用書を手がけるうち、実用書には一般書にはない特徴やメリットがあることに気付き、それをうまくビジネスにつなげていくことで本業のビジネスを加速させられることが明らかになったからです。
しかもその方法は、再現性が高いのです。
再現性が高いということは、誰にでも適応できるということ。
誰にでも適応できるということは、つまり参入しやすいということです。
実用書に求められることは、面白さよりもわかりやすさであることは、既にお伝えした通りです。
ということは、ある一定の専門知識さえあれば、あとはどれだけわかりやすく伝えられるかどうかです。
例えば、何度か例として挙げているマイクロソフト社のワードの使い方を解説する書籍を作る場合、読者から求められていることは、それを読んできちんとワードが使えるようになることのみです。
著者がワードの資格を持っていようがいまいが、読者にはあまり関係がありません。
誰彼も著者になれるわけではありませんが、それでも一般書の著者になることと比較した場合、実用書の著者になることはそれほど難しくありません。
私がこれまで手掛けてきた実用書の著者たちの多くも、無名な状態からスタートした人がほとんど。
そう考えると、実用書は参入しやすいと考えてもいいはずです。
参入しやすいだけではありません。
実は、増刷がかかりやすいのも実用書のよいところです。
先ほど、多くの著者が一発屋で終わってしまうという話をしましたが、著者であり続けるには、やはり書いた書籍がきちんと売れていることが原則です。
書籍が売れるとは、増刷されるということです。
書籍が増刷されれば、その分は出版社の利益になります。
ですから、何度も増刷のかかる著者は、「売れる著者」として扱ってもらえるようになります。
売れる著者として認知してもらえるようになると、他の出版社からも優先的に声がかかるようになり、結果として息の長い著者になれるというわけです。
出版社の編集者が、その著者を「売れる著者」かどうかと判断する基準は、書籍の最後にある奥付というページに刷られている増刷回数です。
その著者が出した書籍は、初版止まりなのか、それとも増刷されているのか。
増刷されているとすれば、どのくらいの期間で何回くらい増刷されているのか。
といったところを最初に確認します。
ということは、編集者から「売れる著者」と判断してもらいオファーをもらえるようにするには、増刷がかかりやすい書籍を書いた方が有利だということです。
ちなみに、一般書の初版部数はどのくらいか想像できますか?
書籍によって数は異なりますが、一般書の平均的な初版部数は、1万部くらいです。
それに対し、実用書はどうでしょうか。
実用書の場合、一般書のように爆発的には売れないことがあらかじめわかっていますから、初版部数は4000部くらいです。
ここでポイントなのは、編集者が確認する奥付に記載される増刷回数は、あくまで増刷された回数であって、実際に何部刷られたのかはわからないという点です。
一般書で1回増刷された人と、実用書で1回増刷された人では、同じような見られ方をします。
編集者としては、増刷されている著者の方がいいに決まっていますから、初版部数が少なく増刷がかかりやすい実用書を選んだ方が良くありませんか? 長く著者であり続けることを考えると、実用書の方があなたにとって負担も少ないはずです。
その他、自分のファンを増やし、ビジネスを加速させていくという点でも有利です。
悩みや欲求に訴求して作られる実用書は、何か困りごとを抱えている読者に対して、その悩みの答えを提供するものです。
ですから、その中身さえきちんとしていれば、悩みや欲求を解消できた読者から感謝されますし、信頼もされます。
感謝や信頼が生まれるので、「この先生のおかげでできるようになった」というように、自然とファンも増えていくのです。
ビジネスを安定させるには、いかにファンを増やし繰り返し購入してもらえるようにするかが大切だといわれます。
初めての人に商品を売るよりも、既に自分のことをよく知っている人や商品の良さを理解してくれている人に売る方が簡単だからです。
ということは、書籍を通して自分のファンになってもらえれば、自分が提供する商品やサービスを購入してくれる確率も高まるはず。
それはすなわち、ビジネスが加速していくということなのです。
ただ、出版することであまりに目立ちすぎると、そのやり方を真似する人が出てきます。
悩ましいことですが、これはどのビジネスにも言えることです。
出版業界においても、よく売れる書籍が出ると、それに追随して、似たような企画やタイトルの書籍がどんどん出てきます。
真似されること自体にあまり神経質になっても仕方がないような気がしますが、できることなら無用なストレスは減らしていきたいですよね。
そういう意味でも、実用書は最適です。
実用書の売れ方は、一般書と違って緩やかにコツコツと売れていきます。
一般書のように週刊ランキングにランクインするようなことは滅多にありませんし、カテゴリランキングでも上の方にくることはほぼありません。
目立った売れ方をしないので、他の出版社から気付かれにくいですし、気付かれないので、独走状態で長期にわたって売れ続けるということも可能です。
私が過去に手掛けた書籍でも、ずっと水面下で売れ続け、最終的に10万部売れたものもあります。
ただ、それだけ売れたと言っても瞬間的に勢いよく売れたわけではなくて、10年ほどかけてそこまで伸びました。
このように、一般書のようには勢いよく売れないけれど、人知れずコツコツ売れていくのが実用書です。
端から見ると売れていそうには見えなくても、実際に書籍が売れているかどうかは書店員だったらわかります。
書店員さえ「この本はコツコツ売れるな」と感じてくれれば、書店に並べてもらえますから、継続してその時その時で読者に手に取ってもらえるようになるのです。
参入しやすくかつ息の長い著者であり続けられる確率が高い。
そして、手堅くファンを増やしていくことで、本業のビジネスを加速させられる。
これが、実用書のよいところです。
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