多くの人が出版したいのに出版できない理由
実用書の出版は、ビジネスを加速させるのに効果的ですし、今のあなたにそれほど知名度がなくても、これから著者になれる可能性は十分にあります。
とはいえ、出版社はあくまでもビジネスとして書籍を作り売っているのであって、ボランティアでやっているわけではありません。
ですから、誰でも著者になれるわけではないということは、よく理解していただきたいところです。
私のところには、年中いろんな人からの企画書が持ち込まれます。
でも、その多くがとても出版社へは売り込めないようなものばかりです。
出版社へ売り込むことができない企画書とはどのようなものでしょうか。
それは、出版社がなんのために書籍を出版するのかがまるで理解されていない企画書です。
出版社はあくまでもビジネスとして書籍を作り売っているわけですから、出版がビジネスである以上、書籍を売ることで利益を出していかなければなりません。
そのことが、送られてくる企画書からは感じられないのです。
書籍を作るのに、1冊あたりおよそ300万円かかります。
出版社がそれだけの費用をかけて書籍を作っている中、「本を出したい」と言って出版企画書を持ち込むということは、その企画書に対して300万円出してくださいと言うようなものです。
書籍の価格を1500円とし、初版で4000部刷る場合、出版社の1冊あたりの取り分は大体67%くらいだと言われています。
この基準値は、出版社と取次の関係性や、発刊点数などさまざまな条件によって変動しますが、大体このくらいの数字です。
出版社の取り分が67%ということは、1回の出版に対する損益分岐点は、一体どのくらいでしょうか。
これは、実際に計算していただくとわかりますが、およそ3000部が損益分岐点の目安です。
つまり、4000部刷ったうち3000部以上が売れて、そこではじめて出版社に利益がもたらされるというわけなのです。
ですから出版社側も、「この企画は本当に300万円を出す価値があるものなのか」と、企画の持つ可能性を見極めようとします。
こう考えると、出版企画書は、投資案件のようですね。
もしかしたら、そうだと捉えていただいた方がわかりやすいかもしれません。
ビジネスや投資案件だと捉えると、出版企画書に絶対必要な情報は、面白さや斬新さだけではないことがわかります。
面白さというよりも、確実に3000部売れそうなのかどうかという期待感とその根拠となる情報が必要です。
にもかかわらず、皆さんが書かれる出版企画書には、そうした期待感も、根拠となる情報もまったく書かれていないことがほとんど。
自分の想いや熱意しか書かれていない、独りよがりな企画書が多く散見されます。
出版社はビジネスとして出版しているのですから、きちんと利益を出し続けられるように努力しています。
そうした背景まで汲んで作られていないと、いくら出版企画書を書いても採用されるはずがないのです。
出版社に自分の企画への投資をしてもらうために
では、一体どのような企画であれば出版社から投資をしてもらい、出版できるのでしょうか。
その答えは実に簡単です。
それは、あなたが自分で書籍の売れ行きを担保できる企画であれば、企画は通してもらえます。
もっとわかりやすく言うと、自分の企画に対し「最低3000部は絶対に売ります」と確約できればいいということです。
これは決して、あなたに対し出版にかかる費用を負担してくださいとか、書籍を全部買い取ってくださいと言うわけではありません。
買い取ったとして、その先で自分のお客様に配ってもいいですし、献本することで人とのつながりを作り、その先で費用を回収したっていいわけです。
やり方はいろいろありますから、正直そこは大きな問題ではありません。
大事なことは、出版社から投資してもらえるかどうかではなく、投資してもらって出版することで、自分のビジネスが加速すること。
言い換えれば、そうなるような企画に対して投資してもらうことです。
そのためには、企画の主体性をあなたが持てるようにしなければなりません。
企画に主体性を持つとは、自分の企画にこだわり、最後まで責任を持つということです。
なぜこのようなことを言うかというと、編集者の言われるままに出版し、ビジネスを加速させられないことがままあるからです。
ありがちなのは、企画を持っていった出版社の編集者から、「あなたのプロフィールなら、こういう企画よりも、こちらの企画のほうがいいと思います」と言われ、自分のビジネスにつながらないような企画で出版してしまうケースです。
もちろん、これは編集者が悪いのではありません。
編集者は自社がきちんと利益を出せるような企画で書籍を出版することが仕事なのであって、その書籍で著者のビジネスが加速するかどうかは仕事ではありません。
でもあなたとしては、出版することでビジネスを加速させたいわけですよね。
書籍を読んでくれた読者が、最終的になんらかの形であなたのビジネスに関わってもらえるようにしたいはずです。
なので、たとえ編集者から他の企画を提案されたとしても、それが自分のビジネスを加速させそうなものでないとしたら、その提案を跳ね除けられる強さが大事なのです。
「そういう企画にするのであれば、私は御社から出版をしません」と言えるかどうかです。
でも、多くの人が「せっかくのチャンスを逃したくない」というような想いで、相手の言うことをのんでしまいます。
非常にもったいない事ですよね。
そうならないためにも、、自分の企画に対し売れるという自信を持つことです。
もちろん、ただ自信があるだけではいけませんから、出版社が首を縦に振ってくれるよう、その自信の根拠として売れ行きを担保することが重要です。
たったこれだけのことですが、実際はできない人のほうが多いです。
企画を持ち込み、編集者から「買い取れますか?」と聞かれた途端、「いや、無理です」と答える人ばかり……。
編集者は、何も本気で買い取らせようとしているわけではなく、著者の覚悟が知りたいだけで聞いているのですが、「商業出版を目指したいのでお金を出したくない」と言うのです。
もし著者として本当に売れる自信があるのであれば、「売れなかったら買い取ってもいいから、出させてください」と言えるはずです。
編集者はそう言い切れるような、売れる企画を持ってきて欲しいのです。
自分がお金を出す気にもならないような、売れる自信のない企画なら、最初から持ってこないで欲しいというのが出版社の本音だったりします。
「出版って厳しいんだな……」と思われた人もいるかもしれません。
でも、これは別に出版に限った話ではありません。
もし、あなたの友人が会社を設立すると言って、あなたに300万円を出資してくれないかと言ってきたとします。
それに対してあなたが「もし会社が潰れたらどうするの?」と聞いた時、友人から「潰れたら、その時はその時。
それが投資ってもんでしょう」と言われたらどう感じるでしょうか。
「もしものときはちゃんと自分が責任を持ちます」と言う人と、「失敗したらその時は残念だったね、ということで」と言う人がいたら、どちらの人に投資したくなるかという話です。
お金は出して欲しいけど、失敗した時の責任は取りたくないというような人に、果たして誰が協力したくなるでしょうか。
それを考えれば、出版社側の気持ちも理解できるのではないでしょうか。
出版企画書が優れていることは大切なのですが、それだけでは企画に主体性を持って話を進めることは難しいです。
もしもの時の責任を、著者である自分がきちんと引き受けること。
そしてその根拠として、書籍の売れ行きをきちんと担保すること。
最低でもこの2つがあれば、出版社からOKをもらえる確率はグンと高くなります。
自分で買い取るという選択肢を持てるのか
売り上げを担保すると言っても、実際どのくらいの金額を担保できればいいのかがわからなければ、当然不安になりますよね。
なので、ここでは少し具体的な金額や買い取りに関する話をします。
一般的な話になってしまいますが、実用書であれば、最低400部。
多くても2000部くらい担保できればOKが出ます。
実際の数字は出版社によって異なりますが、大体このくらいを目安に考えればよいでしょう。
400部を担保する場合、金額にして60万円くらい。
著者が書籍を購入する場合は、著者購入ができるので、実際はそれよりも安く購入できます。
書籍の買い取りに関しては、さまざまな意見がありますが、個人的には、その選択肢も最後の手段としてはありだと思っています。
なぜなら、商業出版を自分のビジネスを加速させるための戦略だと考えれば、きちんと書店に並びますし、一般の読者にきちんと手に取っていただけるようになるわけです。
それだけでなく、著者としてのブランディングもできます。
もしこれが、書店に並ぶこともなくただ買い取って終わりという話なら、出版の意味はありません。
でも、きちんとした出版を行い、その結果として売れなかった分の責任をとるという話であれば、ごく真っ当な話だと思うからです。
せっかく作っても、結局家の倉庫で眠っているとか、会社の片隅に置かれてしまうくらいなら、出版しても意味はありません。
でも、そうじゃないのなら買い取りもあり。
「買い取り」という言葉だけで腰が引けてしまう人も少なくありませんが、著者の中には、書籍を買い取り、うまく自分のビジネスにつなげ、結果的にビジネスを加速させている人もいます。
ケース事例として、3つほど紹介します。
ケース1:買い取った本でサイン本プレゼントのキャンペーン行う
Facebookなどで、サイン本をプレゼントするキャンペーンを行うという広告を出稿し、集まった人たちにプレゼントする方法です。
書籍は著者購入であれば、1500円の書籍を1200円で購入できますから、浮いた300円は広告費として使えます。
読者はサイン本をプレゼントしてもらえるのですから、お得だと感じて喜んでくれそうですし、それならと、メールアドレス以外にも住所や電話番号なども入手することができそうです。
300冊ぐらいなら、簡単にはけてしまいます。
ケース2:全国の商工会議所に献本する
商工会議所は全国に500箇所以上あります。
まずは著者購入で500部購入して、そのすべてを商工会議所に対し、セミナー企画書と一緒に献本するという方法もあります。
商工会議所でのセミナーの場合、講師料が5万円〜10万円の場合がほとんどです。
著者購入であれば1200円×500部なので、60万円の経費はかかりますが、献本の結果、セミナー講演6〜12件のオファーがあれば回収できます。
セミナーをする中で、コンサルの依頼などが発生することもありますのでやってみる価値は大いにあります。
ケース3:買い取った本を使ってオンラインサロンに集客する
書籍を買い取り、オンラインのメンバーにプレゼントして根強いファンを獲得している人もいます。
オンラインサロンを月額5000円で15人集めることができたら、年間90万円の売上があります。
その90万円で750冊を購入したら、ほぼ間違いなく出版は可能です。
その買い取った750冊は、すでにいるオンラインサロンのメンバーにプレゼントし、残りの735冊を興味がありそうな人にプレゼントします。
735冊全部配布できたとして、そのうちの1%、7人がサロンに加入してくれたとしたら、サロンの売り上げは年間132万円になります。
このように、雪だるま式で出版や集客を繰り返し、利益を出していくという方法もあります。
商業出版をして自分のビジネスを加速させたいのなら、出版することばかりに意識を向けるのではなく、出版のその後のことまでトータル的に考えなくてはいけません。
今紹介した3つのケースのように、自分の売り上げ予測をすることで、商業出版を投資として捉えることもできます。
あなたに必要なのは、出版することを、ビジネスを加速させるための戦略のひとつとして考え、自分のビジネス全体を俯瞰してみることです。
それができれば、先ほどの話も悪くないと思います。
あなたがその覚悟を持てるようになれば、出版社の人ともより話がしやすくなるはずです。
ただ、買い取りには十分注意してください。
中には、買い取り条件が既に外に知られてしまっている出版社もありますから、買い取り部数や条件だけを見て決めてしまうと、ブランディングという観点で考えた時に思ったような効果が得られない場合があります。
たとえ読者は気付かなくても、出版業界にいればわかってしまうことなので、2冊目以降の出版につながるかという点で、微妙になることもあります。
あなたが自分のビジネスを加速させるために、売り上げを担保したり、買い取ったりするという考えを持つことは大切なのですが、だからといって闇雲に買い取ればいいという話でもないのです。
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