スラッシャーとは?

名刺に肩書がひとつしかない。それが当たり前だと思っていませんか? 私の肩書は、10を超えます。書籍編集者/観光列車評論家/ポイント投資研究家/人形町まち歩き観光ガイド——そして、これは趣味の自慢ではなく、戦略です。

結論から言うと、スラッシャーとは複数の肩書(スラッシュ「/」で区切って名乗る専門性)を持って活動する働き方のこと。最大のメリットは、肩書の掛け算によって「その分野で唯一の存在」になれることです。そして、誰でも今日から始められます。

この記事では、自ら10超の肩書で雑誌・テレビ・ラジオの取材を受けてきた実践者として、スラッシャーの本質と始め方を解説します。

スラッシャーとは、どんな働き方か?

スラッシャー(Slasher)は、「編集者/評論家/講師」のように、複数の専門性をスラッシュでつないで名乗る人を指す言葉です。副業・複業と重なりますが、ニュアンスが少し違います。副業が「収入源を増やすこと」に重心があるのに対し、スラッシャーは「専門性の顔を増やすこと」に重心があります。

重要なのは、それぞれの肩書が収益化されている必要はない、ということです。私の肩書の多くは、趣味や生活から始まりました。システム手帳が好きで研究し、ホームシアターに凝り、ポイントを貯め、観光列車に乗り、住んでいる人形町を歩く。それを発信によって専門性の形に編集した結果が、肩書です。つまりスラッシャーとは、「生きている限り、全てがコンテンツ」を肩書のレベルで実践する働き方なのです。

スラッシャーのメリットは、何か?

1つ目:掛け算の希少性。「書籍編集者」は日本に大勢います。「観光列車評論家」も、私だけではありません。ただ、「1,500冊を作った編集者で、観光列車を語れる人」となると、ほぼ一人です。肩書は足し算ではなく掛け算で効きます。1万人に1人の専門性を2つ持てば、計算上は1億人に1人。競争は、掛け算した瞬間に消えるのです。

2つ目:取材・仕事の入口が増える。メディアが探しているのは「その話題を語れる専門家」です。肩書が10あれば、取材の入口が10になる。実際、私へのテレビ・ラジオ・雑誌の取材は、編集者としてではなく、観光列車評論家やポイント投資研究家といった「2枚目以降の肩書」から来ています。そして一度取材されれば、その実績が肩書の信頼性をさらに強くする循環が始まります。

3つ目:リスク分散と長期の自由。ひとつの専門性は、市場の変化で価値が変わります。複数の顔を持つことは、キャリアのポートフォリオを持つこと。年齢を重ねても、どれかの顔で現役でいられます。

4つ目:人生の全てが資産になる。趣味も、住む街も、失敗も、発信すればコンテンツになり、肩書に育ちます。仕事と人生の境界が溶けて、「経験を楽しむこと」がそのまま「専門性への投資」になる。これが、スラッシャーという生き方の一番の果実だと、私は思っています。

「器用貧乏」と何が違うのか?

ここで、必ず出る疑問に答えておきます。「複数に手を出したら、全部中途半端になりませんか?」

器用貧乏とスラッシャーの違いは、軸の有無です。私の場合、軸は一貫して「編集」です。手帳も、ホームシアターも、観光列車も、対象は違えど、やっていることは同じ——体験を集め、情報を構造化し、誰かに伝わる形に編集する。軸となる技術がひとつあれば、肩書が増えるほど軸は太くなります。逆に、軸なしに流行を渡り歩くと、器用貧乏になります。

だから、始める順番が大事です。まず1本目の軸(本業の専門性)を持つ。2枚目以降は、その軸で他の対象を料理する。この構造なら、肩書は散らばりません。

2枚目の肩書は、どう始めればいいのか?

手順は3つだけです。

手順1:候補を棚卸しする。お金と時間を人より多くかけてきた趣味・関心・生活領域を書き出します。10年続けていること、つい人に語ってしまうこと。売れるかどうかは、まだ考えなくて構いません(見つけ方の詳細は「売れるテーマの見つけ方」へ)。

手順2:発信で旗を立てる。その領域について、ブログなどストック型メディアで発信を始めます。名乗りたい肩書をプロフィールに書き、その肩書にふさわしい記事を積む。専門家とは、資格ではなく、発信の蓄積が作る認識です。

手順3:実績を肩書に還流させる。発信が続くと、質問が来て、紹介が生まれ、やがて取材や仕事の声がかかります。その実績をプロフィールに書き足す。この循環が回り始めたら、その肩書はもう「自称」ではありません。

大げさな準備は不要です。名乗って、発信して、続ける。私の肩書もすべて、この3手順の繰り返しでできています。最初の記事を書いた日には、誰も専門家と呼んでくれません。100記事目のころには、呼ばれ始めています。

よくある質問

Q. 肩書は自分で名乗っていいのですか?

資格が不要な分野なら、名乗ること自体は自由です。ただし、名乗りに実体(発信・活動・実績)が伴って初めて社会的に機能します。名乗る→発信する→実績を積む、の順で肩書を育ててください。士業など資格が必要な名称は別です。

Q. 本業に支障が出ませんか?

2枚目の肩書は、もともと生活や趣味に使っていた時間の「発信化」から始まるため、追加負担は思うほど大きくありません。また、勤務先がある方は就業規則(副業規定)の確認を。発信自体は収益化しない範囲なら問題ないケースが大半ですが、事前確認が安全です。

Q. 名刺やプロフィールには、どう書けばいいですか?

場面で出す顔を変えるのが実務的です。すべてを常に並べる必要はなく、相手に関係する肩書を2〜3に絞って提示します。ウェブ上のプロフィールページには全体を載せ、各肩書の実績と接続を示しておくと、どの入口から来た人にも全体像が伝わります。

Q. 収益にならない肩書に意味はありますか?

あります。直接の収益がなくても、取材の入口、本業への信頼の波及、発信の題材、人脈の広がりという形で回収されます。私の場合も、趣味発の肩書がテレビ出演につながり、それが全体の信頼性を底上げしています。


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この記事を書いた人

山田 稔(やまだ みのる)
コンテンツプロデューサー、現役書籍編集者。編集歴30年以上・1,500冊以上の書籍制作に携わる傍ら、「生きている限り、全てがコンテンツ」をモットーに、観光列車評論家、ポイント投資研究家、FIRE投機家、システム手帳研究家、ホームシアター評論家など10を超える肩書で雑誌・書籍・テレビ・ラジオの取材を受けるスラッシャーとして活動。コンテンツビジネス研究所では、知識や経験をコンテンツに設計し、Kindle出版・オンライン講座・商業出版・生成AI活用で収益化する方法を研究・発信している。編集者として300人以上の著者を商業出版に導いた経験と知見が、その方法論の土台。著書に『ひとりではじめるコンテンツビジネス入門』『コンテンツホルダーのためのChatGPT超入門』『生成AI×Kindle出版』などがある。
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